5月の朝に生まれた物語

2018/05/07

180507 朝からみぃさんとライン。家族は僕とべつの場所で二、三日過ごしている。彼女が劇団をやっていた頃の仲間と会ったみたいで、当時のはなしに花がさいたらしい。劇もやりたい僕としては、彼女の劇団ホノルルアカデミーが再結成されたらいいなと思ったので、つっついた。反応はわるくない。タイトルまで決まった。『造花』である。これは彼女の脚本なので、自分だったらどんな脚本かなと考え、L’Arc-en-Cielの1998年のシングルダブルリリース「火葬」と「浸食」にあやかり、浸食ならぬ『侵入』というタイトルにしてみた。内容は細菌の話である。

『侵入』

菌だって生きている。ひとつの生命だ。寄生する母体に影響を与えてしまうほどの。ひとつの世界の状況を変化させて、思いもよらず消滅させてしまう可能性があることを菌自身はしらない。ただ生きているだけなのだ。居心地がよいから気づいたら居着いてしまっただけなのだけど、免疫系といざこざを起こしてしまう。世界の安定を司っているのが免疫系だ。菌はどこからやってきたのだろう。じつは世界の外側からだ。宇宙から星くずにくっついてチリとしてやってくる粒子だ。異世界の粒子。生態系の外の生命だ。菌と免疫系の抗いは続くが、世界のバランスは一方には傾かない。両者はただ世界の中で安住したいだけなのだ。激しくぶつかりあうが、次第に距離感がつかめるようになってくると、互いが補完しあい、出会う前よりも経験を重ねたことで成長していることに気づく。菌も共生する方向へ向かいだす。そのうち菌の仲間──家族とも言っていい──がやってくるが、自分がバリアになってしまい世界には入ってこれないことを知る。家族との別れであった。自分も菌から抗体へと変化していた。家族たちのなかには新しい世界を切望するものもいた。経験をしてみたかったのだ。方法はあった。それぞれが自分であって自分で無いものになるのが条件であった。記憶、意識、身なり、そういった類いを他の生命体や非生命体のものと混ぜこぜにされて世界に送り込まれるのだ。ワクチンという呼びかけであった。その世界に入れば家族とも再会できるかも知れないと淡い期待を抱く者もいた。そういう者は自ら志願して身をゆだねた。ただしワクチンは不完全なシステムであった。送り込まれたがそのまま世界を失う者もあった。そういう者は粒子として声も出さずに世界に居る家族を見つめた。世界を滅ぼすと忌み嫌われながらも再会を切望して今も漂っている。また、運良く世界に入れた者もいた。しかしそこは個別の世界で、パラレルワールドであった。再会を望む、彼、彼女の居ないもうひとつの小宇宙の中に投げ込まれたのだ。世界の膜と膜を互いにこすり合わせて、押し合うことで存在を確認しあった。決して見る事はできず、ひょっとすると触れていると感じていることさえ勘違いかもしれなかった。でも、菌はそれでも良かった。本人は憶えていないが自分の意思を全うしたのだ。世界と世界がところどころでぶつかった。一方の世界が侵入をこころみるが、膜は破れない。そこで築かれるのは新たな膜、世界であった。侵入はできず排出ばかりがなされ、膜は無数に増殖していった。ただその間を粒子だけがすり抜けて漂っている。それはひとつの星団のようであった。いくつもの世界が生まれては死んだ。そのたびに粒子に戻り、チリとなっては他の星団に飛んでいった。エネルギーは渦となった。動きを追っていると時間が刻まれ、物語が生まれた。粒子は粒子であるうちは、時間と無関係であった。動きの外にいたのだ。何かの弾みで動きの内に入ると、いくつかの粒子が集まった。気づけば自分たちがひとつの菌になっていた。いつのまにかひとつになっていたのだ。世界のどこか、いつの時間かは分からない。その外であろうか。その内であろうか。着床すると、そこに侵入する者はもう誰ひとりあらわれなかった。膜が揺れ、ただ静けさだけがあった。

という話。これ劇になるかな?
小屋みたいな劇場で、ひとつの小道具だけで。